長文メール


 私は間違いなく、今、恋をしている。

 異常だと思われるかもしれないということは自分でも理解している。顔も見たことのない、ネット上の相手。そう、「メル友」なのだから。

 出会いのきっかけは何処かの掲示板だった気がする。今は、もう閉鎖してしまったが、悩み相談のサイトだ。誰もが自己満足の持論を披露するその場で、彼の考えは明らかに私の目を引いた。

 最初に見かけたときはやはり「次元の違う人」「ねじれの位置」というような係わり合いにはなれない有名人のような気がしていた。

 それが何のきっかけで、メールをするようになったのだ。そのきっかけは私も既に覚えてはいない。彼が先に突っかかってきたような気がするのは確かだが。

 彼から届くメールはいつも異常なほど長文である。5KBなんて当たり前で、テキストのはずなのに添付よりも重くなっているときすらある。この長さのメールを携帯でやり取りしたらすぐに大金になってしまうのは確かなのでいつもパソコンでメールを返す。

 彼の考えはやはり、興味深かった。この言い方は研究対象っぽくて好かれないかもしれない。しかし、本当に一般では気付かない方向へと目が行くのだ。最近、ロボットみたいに周りの人と同じような意見を振り回すような人々を多く見てきたからか、彼の存在はそう、貴重だったのだ。

 だけど、彼が何の短所もない完全なる人間かというとそうではない。それは私が忙しくてメールを返す暇がなかったときのことだ。彼は私に「何か気に障ることを言ってしまったのではないか、そうだったらいって欲しい!」というメールを送ってきた。これには私も驚いた。いや、笑ってしまった。いつも自信に溢れているように振舞っている彼がそんな風に悩んでいる姿を想像すると、失礼だということはわかっているが笑えてしまう。

 私は彼に返事が遅れたことを詫び、いつものようにメールを返した。彼は「心配させるなんて!」と少し怒ったような素振りも見せていたが、やはりその日のメールもとても長かった。

 彼は少しずつ自分の趣味や最近あったことを話し始め、撮った花の写真なども私に見せてくれた。いつのまにか私は彼の一言になんて返したらいいか、そんな風に純粋に考えている自分に気がつく。

 ……おかしなことだ。今までそんな風に他人に興味を持ったことなんてなかったのに。彼が送ってくるメールの一言一言に一喜一憂している私を目の当たりにする。
 私は今日も彼に送るメールを書き、「では」と文を締めくくる。そしてふと手を止めた。

 改行して、『追伸・いつか、会えたらいいですね』そう、打ち込む。

 それはきっと、叶うことはないだろう。何故なら彼にとって私はただの「メル友」であり、趣味のことは話してもそれ以上は決して踏み込まない。異常なほどに長く太い境界線が私たちの間には引かれているのだから。

 それでも私はその1行を消そうとは思わなかった。これは私の夢。誰も夢まで消せとは言わないだろうから。

 かちりと送信ボタンを押して、私はパソコンの電源を落とす。
 叶わぬ恋だとわかっていても今は彼のメールを楽しみにして、そうやって生きていきたいのだ。
                      【END】


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ヒトコト