罪の牢獄
薄暗闇の中。
懐中電灯を持った男。
その男に怯え、恐怖に顔をゆがめるもう一人の男。
醜い男の瞳に映るものは一体なんだったのか知る由もなく、懐中電灯を持った男は、もう片方の手で勢いよく包丁を振り下ろす。
ぐしゅっというような鈍い効果音が響く。それはドラマでやるような心地よい効果音ではなかった。
暗闇の中で真っ赤な血は目立ちそうもない。
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それはたまに見る夢物語。
男が人を殺す、夢。
いや、夢じゃあない。
それは、二度と消えることはない俺の罪の話。
俺が人を殺してから早三年が過ぎた。
つまり、言い換えれば『逃亡歴三年』。
捕まる形跡は全くと言っていいほどない。
証拠はすべて消した。
自分でも驚くほどの完璧な犯罪。
しかし、時効まではほど遠し。
俺を苦しめる夢だけは続く。
簡単に説明すると、俺は新しい生活をはじめるために俺をずっと苦しめていた男を殺した。そして田舎町に引越し、ぼろいアパートを借りてそれなりの毎日を送っている。仕事も見つかり、収入も高いとはいえないが、ある。
人間関係も良好。恋愛もそれなりに。はたから見れば実に『普通の人間』である。
勿論、一般的な人たちからは『犯罪者のくせに普通の人と同じ生活を送っているなんて』と言われるかもしれない。いや、言われるだろう。
でも、そのことは誰も知らないこと。
世の中が多数決で出来ているなら、俺は犯罪者じゃない。
時計を見るとすでに昼の二時を回っていた。
たまの平日の休みだから、こういう日もあってはいいんじゃないかと思う。
いつもは見れない平日の番組に興味を持ち、俺はテレビのリモコンを回した。
予想通りというか、昼のワイドショーが大半を占めている。
まあ、そんなもんかと半分諦めていたそのとき、突然の、暗い部屋の中の映像。
ドラマらしい。テレビで何度か見たことのある女優の恐怖の声が聞こえる。
昼のサスペンス劇場?・・・まあ、そんな類のものか。
最近になって、俺はミステリー系のドラマや映画をよく好むようになった。
確かに死体を目の前で見た男の感想としてはグロさにかけるという点はあるけれども、俺はストーリー重視なのでそんなことにはこだわっているわけではない。
そう、俺と同じような罪を犯した者をたくさん見ることが出来る。
・・・ドラマだとは分かっていても。
だけど、当然といっちゃあ当然だが、必ず犯人は捕まってしまう。
その瞬間に俺は自分が捕まるという恐怖に襲われる。
だから、一度も最後まで見たことはない。
途中でテレビを消してしまう。
初めてその恐怖を体験した瞬間は思ったものだ。
『世の中に推理小説なんてものがあるのは、犯罪者に少しでも恐怖をあじあわせたいが為か?』と。
・・・結局は見なければいいんだけど。
これを読んでいるあなたがたは「こんな男、とっとと捕まってしまえ。」と思っているだろう。
でも、俺は捕まるわけにはいかない。
俺は生きるためにあいつを殺したのであって、罪をかぶって牢獄に入るためじゃないからだ。
開き直りと言われるかもしれない。
『俺は今幸せだ。』
生きるためにあいつが邪魔だった。
俺が生きるためにあいつを殺すしかなかった。
罪なら死後、いくらだってかぶろう。
地獄だって何処だって連れて行くといいさ。
半端な覚悟で俺は人を殺したわけじゃないから。
命の重みだって知っている。
それでも、辛くても、苦しくても、恐怖に襲われたとしても、俺は生きる。
罪の牢獄に入ったままでも。
ついたままのテレビでは早速探偵が難しそうな顔をしている。
俺は少しだけ口元を歪め、すぐにテレビを消した。
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俺はもうしばらく逃亡生活を続ける。
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